①鈴木さんのこと
鈴木さんが初めてレッスンに来たのは、60代の後半だったでしょうか。
「抒情歌が好きで、それを弾けるようになりたい」とのことでピアノのレッスンを開始。
ピアノや歌がお好きで、自宅にレーザーディスクを買って毎日歌っている、と音楽を楽しんでいらっしゃいました。
しばらくすると指の不調が出たので歌のレッスンをご希望になり、その後体調などの都合で中断・再開を繰り返していましたが、奥様が亡くなった7年前から長い中断に。
今年の春になり、
「いつか孫の結婚式で歌えたらいいなと思いまして…」と長渕剛の『乾杯』でレッスンを再開されました。
7年ぶりにレッスンにお見えになっとき、
「カラオケとは違って、ピアノの音色は本当に清らかで美しいね!」
「この歳でこんな風に歌えるなんて私は幸せですね。いやぁ本当に気持ちがいい」とそれはそれはとてもいい笑顔でおっしゃいました。
その鈴木さんのレッスンで、私は自分の不徳に気づくことに。
というのも、私にとってピアノは毎日弾き、聴く音。当たり前すぎてその音色に感動することもなく、歌のよさもここで改めて再確認するようになったのですね。
あぁそうか、私はピアノの音色を新鮮に感じることを忘れていた、歌う清々しさもずっと忘れていたんだなと、ここで気づかされました。
鈴木さんは毎回、本当に楽しそうな笑顔で歌い、お帰りになっていく。
その歌と笑顔に、私はすっかり忘れていた原点のようなものに戻れた気がしました。
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